おせち料理の調理は、長い間、年末の大切なイベントでした。家族・親族が集まるお正月に向けて、祖母や母がその家に伝わるレシピで調理した黒豆や昆布巻き、煮しめなどを準備し、ちょっと高価な蒲鉾や伊達巻を揃え、色鮮やかなエビなどをあしらって重箱に詰めてお正月を待つという大切な料理なのです。しかし、そのおせち料理は近年ずいぶんと様変わりしてきました。まず、女性たちの社会進出が進み、年末年始に休めない、また、多忙である人が増えてきている、ということです。
なかなか揃って台所に立ち、手間のかかる料理を用意できない、という人が増えたのです。そして核家族化が進み、正月といえど親戚一同が会することも減ってきた、ということもあります。そんな情勢の変化に伴って、ホテルのレストランやデパートが毎年特色をもった豪華なおせちを販売するようになった、ということから、ゆっくりお正月に出かけられない代わりに、そういったゴージャスな料理を取り寄せて、自宅で、家族で楽しむ、というスタイルに変わってきているのです。また、諸事情で一人で年末年始を過ごす人にも、少量ずつ贅沢な料理を詰め込んだセットも用意されるようになり、好評になっています。
最近では、その注文時期もずいぶんと前倒しされてきており、まだ暑さが残る晩夏のころには各デパートやホテルがメニューを発表し、予約を開始することも珍しくありません。また、その注文が早々に一杯になってしまうのです。一年の流れが速くなり、お正月そのものの重みが減ったと言われて久しい近年ではありますが。9月頃に翌年のお正月を楽しみに家族でどのおせちを選ぼうかと思案したり、忙しい仕事の合間に新しい年に思いをはせる、おせち料理とは、そんなきっかけを作るアイテムとなってきているのです。